傘ドロボウ

傘ドロボウの瞬間を目撃してしまった。俺と同世代の男が自転車に乗っていて、他の自転車の横にに停めたかと思うとサドルの後ろに刺さっていたビニール傘を引き抜いて持ち去った。雨がぱらつき始めた直後だったから気持ちはよくわかる。
治安の良い日本だけど、傘ドロボウだけは日常茶飯的に存在する。警察を届けるという目的は別として、「持っていけば完全犯罪で泥棒できちゃう」という状況に誰かの私物が置いてあっても、結構長いことそのままだったりするのが日本だ。でも雨の日の傘だけは一瞬でなくなる。傘に関してだけは他人のものを盗むという行為にもかかわらず、罪悪感が薄い。理由は日常茶飯時だからだ。
でも犯罪は犯罪だ。雨の日に誰にでも盗れてしまえそうな場所に傘を置き、通りがかった人が持ち去ろうとする姿をビデオカメラでおさえ、「あなた今、人のものを盗んだだろう!」、と詰め寄る番組を作ってみてはどうか。あるいはビニール傘に大きく夜光塗料で「傘ドロボウ」と書いておき、その文字をパクった奴が発見して逆上する姿を見る、というのはどうか。
とか考えていて、俺の言ってることは結局、正論を振りかざして相手を追い込もうとする行為でしかないような気がしてきて、凹んだ。逃げ場のない相手を正しい事柄で問い詰めて粛清して、俺の気持ちがすっとして、それが何なんだ。何様なんだ。