正月番組の「ドリームマッチ」を思い出してからClubhouseについて考える

 そもそも「即興で制限時間以内に○○」みたいなものがあまり好きではありませんでした。正月にやってるバラエティ番組の「ドリームマッチ」のシリーズも今のパターンの方が好きです。少なくとも「たった今コンビになった二人が、3時間以内に面白いネタが作れるか?」みたいな企画は、ゲームとしては見所があるかもしれませんが、観ている側からすると「悪い条件の中で精いっぱいやった」という条件のおかげで、精度の低いものを受け取らなければならない……みたいに思ってしまうんです。面白かれば面白かったで「これ、本当に3時間で考えたの? セットまで?」のように勘繰ってしまったりとか。限定コンビでも準備期間は十分欲しいですよね。いわゆる「無茶ブリ」で面白くなるのは平場のトークぐらいで、コントみたいなものは十分に練られた、推敲を重ねたものの方が面白いに決まってる、と思ってしまいます。


 もしかしたら自分の年齢の問題かもしれませんね。一生懸命、即興で頭を働かせる出演者と同じ気持ちになってそのライブ感を楽しむ、みたいな心の余裕がないくらいに、俺がくたびれているのかもしれません。大槻ケンヂだったかデーモン閣下だったか全然違う人だったか忘れてしまったんですが、「ロック音楽に求められる革新性は1割くらいで、残りの9割は予定調和、ぐらいがウケる」ってどこかで言っていて、なるほどと膝を打った覚えがあります。たしかに何もかもが新しいとついていけない。自分が知っていることが居てくれる居心地のいい範囲の中で、少しだけ予定外の刺激があるというのがちょうどいい。わかります。年を取ったので尚更わかります。今までに出会ったことがなかったみたいなものにドーンと出くわして感激して涙をポロポロと流す……みたいなことがほとんどなくなってしまった今は、半分以上が未体験のものだとついていけない、受け止めてみせてるつもりで全然心が開けてない、耳に入ってこない、おおむね予定調和で提案してくれないと対応できない、みたいなことが多いような気がします。……即興の話とはちょっと違うかな。


 正月番組もそうですけど、正月に限らず俺、テレビを観るのに、Panasonicの全録、正確には6チャンネル録画のレコーダーを使っています。これが便利で、もうなかった頃に戻ることはできません。観たい番組があったら予定を済ませて慌てて帰宅して、家族とのチャンネル権争いに勝利した後騒がないように黙らせて、食い入るように観ていた頃(っていつの時代だよって話ですが)では考えられなかった。Eテレを除いたキー局の番組が全部録画されているから、後から観たかったものだけ観られる。話題になったものだけ確認できる。お風呂に入らなきゃいけないけど先が気になってその場から動けないということがない……だって全部録画してるんですから! こういう便利な生活を手に入れてしまうと、「みんな注目してるし、話に乗る為にも生で観ておくか」ということがほとんどなくなります。さらに……ぶっちゃけた話、話題になったところは、必ず切り出されてTwitterに違法アップロードされるので、それだけ観てしまって納得してしまうこともままあります(これは違法にアップロードされた映像じゃないか! 俺は観ないぞ! とリツイートされてきた映像を再生しない、という信念を貫くほど自分は潔癖ではないのです)。


 ライブハウスでのトークライブや、ラジオの生放送のトークが面白いのは、しっかり編集していたら出てこないようなぶっちゃけ話のこぼれ方と、自分がその場でリアルタイムに存在し反応するライブ感が楽しいと思うんです。でも最近はそのネタに話題性があれば必ず「あのトークライブでのぶっちゃけトークで、あいつがこんなことを言っていた!」というのは後からかならず話題になり、まとめられます。場合によっちゃその場にいなければ聞けなかったはずの音源がこれまたどこからともなく違法アップロードされて、生々しく後追いできるかも……と日々感じています。足を運ぶ、時間をあわせるというような手間をかけなくても、いわゆる「おいしい部分」だけを後追いすることが可能な時代になりました。


 即興で出てくる新しさにそれほど魅かれなくなり、ライブ感よりも自分の都合をあわせずに済む便利さに溺れ、全部を体験しなくても話題になってる要所だけをつまみ食いして消費することに慣れてしまった2021年に、出会ったSNSがClubhouseです。文字でやりとりはほぼできないというところにびっくりしましたし、一人が二人までしか呼び込めない招待制というところに引き付けられました。誰にも誘われない、自分は必要とされてない……と感じるよりはやっぱり招待されたいし、できれば自分の希望通りの短い文字列でのアカウントを取得したい……みたいなことを考えました。幸い昔からの友人にノミネートしてもらうことができたので中を覗いてみると、日本ナイズされた痒い所に手が届くSNSとは違う、武骨な手触りのあるサービスがそこにありました。


 iPhoneのみでandroidとPCは無視、録音(記録)はできない、携帯電話の連絡先に入っている人と連携してしまう、さらに、現時点では退会自体が仕組みになっておらず、メールでの依頼になる……という日本で立ち上げるとしたら出資者から反対されそうな特徴のあるサービスです。もちろんこれからどんどん便利になっていくと思いますし、本場アメリカでもこのタイミングで日本人がこんなに食いついて話題にするとは思ってなかったと思います。やっぱりきっかけは自粛期間以降のZOOMを使った映像付き通話の普及によるものでしょうか。講義や会議だけでなく飲み会のような友人間でのダベりにClubhouseは活用されている模様です。


 俺が感じたのは「ああ、どこまで行っても電話と電話帳だな。それ以上でもそれ以下でもない」ということでした。アメリカでの車での長距離移動の際に、ドライバーがコミュニケーションをするのに使いやすいツール、と聞いてものすごく合点がいきました。たしかにそれです! コメントだのいいねだのという画面を見なければならない情報機能は不要、ダッシュボードに置いて運転しながら画面を見ることなく会話をするということにまさに特化しています。


 日本人が直近で出会って爆発的に話題になったClubhouseを、どんなエンタメや、どんなアカデミックなコンテンツに使えるだろうか……と今いろんな人が試行錯誤していらっしゃいますが……その点については俺は一歩ひいた位置で見ている感じです。なぜなら「どこまで行っても電話と電話帳」でしかないから。そして俺が「即興を面白がれず、自分の都合をあわせることを拒み、まとめに慣れきってしまった人間」だから。面白い、ためになる発信をして、それを評価したり誰かに推薦したりしようとしたら、「電話と電話帳」ではあっという間に限界に達してしまって、パソコンを使ってやりたい、少なくともパソコンも使える環境で行なうことを求められるだろうな、と思います。なので……現時点ではこれ以上流行することはない、と思ってます。


 ひとつ成立するとしたら……友人と同じテレビ番組を観ながらだらだら感想を言う、という楽しみ方はあるかもしれない。それは「運転しながらしゃべる」とほぼ同じだから。それも少人数で、有名人を含めた「友人じゃない誰か」でない人とのコミュニケーションとして、であれば。Twitterで実況しながらテレビ観る人が一定数いるので、その代替としての使い方はあり得るなと思います。


 ですので、もしもMOK Radioをまたやろうぜってなったとしても、ZOOM+YouTubeとかでやりましょうよ、と提案すると思います(笑)。だってどうせなら、電話帳に入ってる友達だけじゃなくてたくさんの人に聞いて欲しいですからね。そん時ゃ俺、顔出し出演も辞しませんよ!


 あと全然関係ないですけど、最近オンライン麻雀のサービスが充実してるみたいなのでZOOMと組み合わせて顔見ながらリモート麻雀やりたいなー。MOKの皆とやりたいのはもちろんですが、東風荘で朝4時まで毎日囲んでた、ドラミやぶらっさーるやぐぅこと一緒に麻雀やりたいなーなんつって。最後完全に私信ですけども。